第11話 スチール・レクタングル 003
「意識の墓標?」と涼太は聞いた。「そう。様々な意識があのレクタングルの中に封印されている」とマ・ムーシーは答えた。そして、「あの鋼鉄の外壁には一切開口部が存在しない。その中に透明化した人々の意識が吸収されて混在している」と頷いて見せた。「透明化した人の意識? それはどういうことですか?」と涼太は尋ねた。マ・ムーシーは言った。「この工場の奥に閉鎖された研究室があり、その中央に約九フィート十インチのフェイズ・ベクター照射機という機械が置いてある。旧式の蒸気制御パネルとプラズマエミッタが融合し、それにリング型のアームがついているといった何とも不格好な外観をしているが、その装置の発射する多相位相干渉光線をあびると人体のすべての細胞が、光の通過に最適化する、つまり透明化されるというものであった。開発したのはここの筆頭研究員でラボの総責任者でもあったセラフィム博士という人物であるが、彼はその装置を使って死刑囚を透明化させ、我々を驚かせたものだったよ」「死刑囚?」と涼太が目を丸くすると、「ああそうだ。アムナス基礎技研ラボは政府の秘密研究所であったからね。発足当初から被験者を刑務所から調達してもらっていたんだよ」とマ・ムーシーは何でもないように答え、「まあ、その話はいい。話を本筋に戻すと、さて、そうして実験を繰り返すうち、透明化して肉体の見えなくなった人間の意識は、長らくはその肉体に留まれない、ということがわかってきた。なんとも不思議なことだがね。透明になった人間の意識は、始めはそのまま肉体にあるのだが、そこで存在できる期間はせいぜい一か月といったところでね。そのあと幽散現象をおこすということがわかった」とチラリと涼太を見た。