第11話 スチール・レクタングル 002

 黒い蒸気を吐き出しながらスチール・レクタングルが廃工場の上に浮いていた。相変わらず不気味な直方体のブロック要塞。涼太はそれを見上げながら、「スチール・レクタングルの内部にはどうやって行くのですか? 地上のものとはまるで接触がないみたいですがあれに入ることはできるのですか?」と、ふと思った素朴な疑問を聞いてみた。コホ・モリーはギロリと涼太を睨み、「そんなことは知らん」と短く答え、そのまましばらく黙々と細くて暗い廊下を先に立って歩いていたが、つと立ち止まると思い出したように、「お前。あの黒い蒸気や排気には近づかないほうがいいと、顧問官が言っていたぞ」とボソリと吐き捨てるように言った。「蒸気や排気?」確かにスチール・レクタングルは蒸気や排気を吐き出している。涼太がその形状を思い浮かべた時、「あの蒸気は吐き出されているのではない。レクタングル自身が発している現象なのだ」といつの間に現れたのか、マ・ムーシーが後ろから声をかけてきた。涼太は驚き飛び上がったが、マ・ムーシーはまるで気にせず、「あの蒸気はレクタングルが意識を保持する際に生じる副次放出物質で、意識が転移する時や内部構造が変化する瞬間、もっとも黒く染まるのだ」と話を続けた。それでようやく涼太も落ち着きを取り戻し、「あの、つまりどういう事でしょう? ボクにはなかなか理解できなくて」と大きく首を傾げて尋ねた。マ・ムーシーは答えた。「私は今でこそ公正評議会の顧問であるが、本来は科学者で、アムナス基礎技研ラボの第二技術総監であった。その我々のチームが創り上げた最高傑作がスチール・レクタングルなのだ。そのスチール・レクタングルとはつまり言うなれば意識の墓標なのだ」