第10話 鉄板ジュウジュウ会談 004
花恋は少しムッとした表情で、「雪之丞クンには関係ないじゃない?」と言った。雪之丞はそっぽを向いて、「あの記者さ、何か嘘をついていると思う。花恋さんて意外と初心なところあるから、騙されそうな気がする」と言った。そしてあとは黙ってお冷のグラスを持ち上げてユラユラと揺らしていた。多聞ははじめ会話についていけず、「なになに? 誰?」とキョロキョロと二人を見比べていたけれど、やがて狸山涼太記者の話をしているのだとボンヤリとわかった。昨日、犬神研究所に来た科学雑誌『ウェルズ』の若い記者。会ってまだ二回目だというのに花恋センパイにやけに親しそうに話しかけていたあの記者。多聞はその時の様子を思い出し、急に腹が立ってきた。そして、「センパイ。アイツはダメですよ。変に馴れ馴れしくセンパイに話しかけて、下心見え見えですよ」と猛烈に反対を始め、「ボク、センパイに傷ついて欲しくないですよ」と最後に付け足した。花恋はその言葉に少しカチンときたらしく、「なにさ、なんでキミたちに心配されなくちゃいけないのよ」と今度は多聞にくってかかった。そしてオムそばをまるで敵のように箸でザクザク刺しながら、「私が好きになったと言ったら本気で好きになったのよ。ホント、年下のくせに人を子ども扱いしないで」と今度は雪之丞を睨んで言った。そしてそのままプイッと席を立ち、食べかけのオムそばを残したままさっさと店の扉を開けてひとりで帰ってしまった。「あれ、センパイ。おごってくれるんじゃ?」と多聞が情ない声を出した。雪之丞は顎に手をやり、しばらくそのザクザクに刺されたオムそばを見ていたが、やがて、「ねえ多聞。キミもあの記者はやめた方がいいと思うよね」とチラリと横を向いた。