第10話 鉄板ジュウジュウ会談 002

 豚玉とオムそばを注文しながら、「あいつってなんだかイヤなヤツだよ。昔から何だかスカしててさ」と花恋は口をとがらせて雪之丞の文句を言った。「人がおごってあげるって言いているのにさ。素直じゃないんだよ」とメニューをしまいながらもまだブツクサと言っている花恋を見て、これはいい機会だと多聞は思い、「花恋センパイは雪之丞のこと・・・」と言って少し躊躇したのち、「好きなんですか?」と思い切って尋ね、途端、思わず頬がかあっと熱くなった。花恋はキョトンとした顔で多聞をしばらく眺めたあと、クスクスと笑って、「雪之丞クンとは幼馴染。彼も言っていたでしょ? 腐れ縁だって。まったくその通り」と答えた。多聞は何だか少しホッとした気持ちになり、「じゃあ、センパイ。雪之丞とはなんでもないんですね?」とまったく油断してお冷のグラスを口に付けた。もちろん、「そうだね」とか、「うん」とか軽く即答があるものだと多聞は思っていた。ところが花恋は案に相違してすぐには返答をせず、少し多聞に向き直り、しばらくその顔をまじまじと眺めたあと、「さて、それはどうだろう?」と悪戯っぽく笑った。ぴゅっと多聞は思わず口に含んだ水を吹きだしてしまった。焼けた鉄板の上でジュウと水が蒸発した。「あ、ごめんなさい、あの」多聞はあわてておしぼりで鉄板を拭いた。焼けた鉄板をはおしぼりをたちまち乾燥させたけれど、多聞はまったく気づかないで指先が火傷しそうになるほど拭いた。花恋はそんな多聞の手を鉄板から離し、また悪戯っぽく、「冗談よ」と笑った。そこに豚玉とオムそばが来た。多聞は鉄板に豚玉を置いてもらったが、花恋はお皿でオムそばを受け取った。