第10話 鉄板ジュウジュウ会談 001
放課後、多聞と雪之丞が一緒に教室から連れ立って出ると、後ろから花恋センパイが駆け寄ってきて、「ねえ、お二人さん。お好み焼きでも食べに行かない? 昨日のお礼だよ」と声をかけた。多聞はすぐに、「いくいく」と満面の笑顔で頷いたが、急にまたいつもの優柔不断が鎌首をもたげ、不安そうな顔になったかと思うと、「ねえ、行くよね?」と雪之丞に確認をした。雪之丞はチラリと多聞を見てから花恋の方を振りむいて、「パス」とそっけなく返事をし、「ま、たいしたことしてないし」と軽く手を上げてヒラヒラと振った。「え、行かないの?」と多聞はひどく残念そうな顔で雪之丞を少し睨んだあと、花恋に申し訳なさそうな顔をして、「行かないみたい」とシュンとして言った。花恋は雪之丞の返答に一瞬鼻白んだようであったけれど、すぐにフフンと鼻で笑って、「雪之丞クンが行かないのなら、それはそれでいいんじゃない。多聞クンには雪之丞クンの分もおごってあげる。二人で行こう」と多聞の手を取った。「ええ、でも」と多聞が嬉し恥ずかしといった微妙な表情でグズグズしていると、「二人で行ってくればいいんじゃない? ボクちょっと駅前に用事があるからね」と雪之丞は多聞の肩をポンと叩き、「じゃあ」と笑顔で帰ってしまった。「行っちゃったね」と花恋はしばらく雪之丞の後姿をボンヤリと見ていた。「そうだね」と多聞もボンヤリと見た。そうして数秒、二人は固まったようになったけれど、花恋はすぐに気を取り直し、「じゃあ行こうか、お好み焼き」と多聞の腕を取り、引っ張るようにして歩き出した。そして、「駅前の鉄板ジュウジュウでいいよね?」と振り返って微笑んだ。多聞は彼女の顔を見て、天使だと思った。