第09話 空想と現実の狭間 004

「自分の話をしているのに、やけに曖昧だな?」と牛松が言った。涼太は首を傾げながら、「うん。だからそうなんだよ。記憶がひどくぼやけていてさ。ボク、ほんとどうして博士の屋敷まで行ったんだろう? いや、それよりなによりまずどうやって、博士の屋敷まで行ったんだろう? 誰かが車で運んだのかなあ」とつぶやいた。牛松はビールの缶を逆さにし、最後の一滴を口の中に落としたあと、「どうしては理由で、どうやっては手段だな」と頷いた後、「それでお前にいろいろ話して聞かせた上司って、いったい何者なんだ?」と尋ねた。涼太は冷蔵庫から缶ビールをふたつ取り出して、そのひとつを牛松に渡し、「企業秘密だから誰にも言うなと言われているんだ」と答えた。牛松は首を左右に振っり、「ばか、答えろよ。そうやって上手くマインドコントロールされて、お前、博士の屋敷に不法侵入していたんだぞ? 下手すれば犯罪者だぞ? オレはお前の上司とかいう人、かなり怪しいと思う」涼太は困った顔をしてしばらく牛松を見ていたが、やがてエヘヘと笑い出し、「まあ、それはいいとして、それで屋敷の地階の書斎に降りていったら、その書斎の本棚の下から手がにゅうっと伸びてきて、ボクの足をつかんだから、ボクはひゃあと息をのんで、そうしたら彼女が出てきたのさ」と言ってビールをグビグビッと飲んだ。「おい、しっかりしろよ。まったく、これじゃ話にならないなあ」牛松は眉間にしわを寄せたが、涼太はすっかり酔っぱらった顔で、「彼女、花恋ちゃんといって、ゴスロリのパジャマ着ていて、いやあ、可愛いんだよこれが」とのろけだした。「コイツ、まったくお話にならないな」と牛松は涼太の頭を軽く小突き、そのままソファに寝かせた。