第09話 空想と現実の狭間 002

 涼太はモヤシを笊で洗った。そしてにんじん玉ねぎピーマンを刻んだのち中華鍋を火にかけて、豚肉をひとつかみ放り込んだ。ジュウと脂の焦げる音がして美味しそうな香りが部屋いっぱいに広がった。牛松は屈伸をしながら鼻をひくひくと動かした。時計の針は十一時、夕食はとっくにすんでいる。これからは晩酌の時間だ。野菜炒めが出来上がるころを見計らい、牛松はヨガのマットをくるくると丸めて壁に立てかけ、逆に壁に立てかけていたソファーを元の位置に戻した。そしてテーブルも元の位置に戻した時、丁度いい塩梅に野菜炒めを盛った大皿と小鉢をふたつ、涼太がその上に並べた。そして涼太は台所のテーブルから缶ビールも移動させ、「とにかく乾杯」と缶を持ち上げた。牛松も、やれやれといった感じで缶ビールを持ち上げ、「じゃあ諦めて聞いてやろう。どんな恋人と出会ったんだ?」と野菜炒めを口に放り込んだ。そうして十分も飲んでいるうち、「お前の話はよくわからねえ」と牛松は渋い顔をして首を傾げるようになった。「だからさ」と涼太は身振り手振りを交えながら、「ボクはゴスロリの女の子と金魚鉢の底で月を見ながらアバンチュールだったんだけれど、そしてら玄関でボヤがおこって、それでいいところで解散ということになったんだけど、まあ、ここからがポイントだ。彼女、ほら、こんな感じで肩の上あたりで手をヒラヒラさせて、またね、といったんだよ。ねえ牛松、これって彼女、ボクに恋してるってことだよね?」と同じ話を繰り返した。牛松は邪魔くさそうに涼太の顔を向こうに押しやり、「ああ、恋だ、恋。嫌だねえ」と横を向いてビールを飲み、「こいつホント、なに言っているのかまるでわからねえ」とつぶやいた。