第08話 金魚鉢の底から 004
「まあ、そんなもんかな?」と花恋が微笑んだとき、上部でジリリリと警報装置がなった。「警報? 見つかった?」と涼太はガバッと起き上がりあたりをキョロキョロと見回した。「ちょっと見てくる」と花恋も急いで飛び起きて、階段をタッタと駆けあがった。そうしてしばらくすると地上階の玄関のあたりでざわざわと人々の話す声がした。涼太は机の下に隠れて花恋が戻ってくるのを待った。そうして小半刻もしたころようやく花恋が戻ってきた。「何の騒ぎなの?」と涼太が尋ねた。「玄関先でボヤがでた。どうもコンセントから火花が飛び散って埃に燃え移ったみたい」と花恋は小声で答え、「近所の野次馬たちも玄関先にいるから、今のうち、それに混じって出て行けばいいよ」と付け加えた。涼太は机の下から身を乗り出して、「ありがとう」と礼を言い、「でもボクは」と何か言いかけた。花恋はにっこり微笑んで、涼太の耳元に口を近づけると、「記者さん。泥棒はダメよ」とささやいた。そして何も言えなくなった涼太を階段から玄関へと連れ出し、「じゃあ、またね」と外に押し出した。犬神博士はボンヤリと玄関先に立っていたが涼太の姿を見かけると、「おや、記者君。キミも来たのかね」と声をかけた。そして、手に持ったビーカーを持ち上げて、「サンカヨウは無事じゃったよ」と笑った。「それは良かったです」と涼太は軽く頭を下げてふと見ると玄関先のコンセントが黒く焦げているのが見えた。「これが原因ですね」と言うと、「まあ、うかつじゃったわい」と博士は頭を掻いてばつの悪そうな顔をした。そうするうち野次馬たちも引き上げだしたので涼太も玄関を離れた。そしてもう一度振り向くと、屋敷の奥にいた花恋は手を小さく振って笑った。