第08話 金魚鉢の底から 003
棚の下から出てきたのはゴスロリ系のパジャマをきた花恋であった。「き、キミ。こんなところで何を?」と涼太は自分のことは棚に上げて尋ねた。「私、ときどきここで寝てるの。この書斎ってちょっと幻想的でしょ? 天窓から差し込む月明りで古い書物や奇妙な陳列物を眺めていと、なんだかここはこの世でないような気がしてね。けっこう好きなんだ」花恋は自分のくるぶしの上に手を置いて天窓を見上げた。涼太も尻もちをついた姿勢のまま、同じように天窓を見上げた。「この書斎って天井が高いから、こうしていると何だか金魚鉢の底にいるみたいで楽しい」花恋はそう言って胡坐をかいたような格好のままゴロンと後ろに転がった。「記者さんも転がってごらんよ。月がとっても綺麗だよ」涼太も言われるまま、花恋を真似て胡坐をかいた姿勢から後ろにゴロンと転がった。転がると花恋の顔がびっくりするほど近くにあった。「ばっか、記者さん。近づきすぎだよ」と花恋は涼太の頭に自分の頭をコンと当てた。涼太が慌てて、「あ、ゴメン」と謝り起き上がろうとすると、「いいよ、このまま。月を見よう」と花恋は逆に頭を少し寄せた。そうしてしばらく天窓から見える空をみていると、「ねえ、記者さんはどうして記者になったの?」と花恋が聞いた。涼太は少し考えて、「ボクは記者になるつもりじゃなくて、本当は今の会社にはシステム担当で入社したんだ。それがなぜか編集部に配属されて」と答えた。花恋は、「ああ」と嬉しそうに頷き、「だから記者さんは科学雑誌の記者にしては知識が乏しい感じなんだね」と花恋は笑った。少し打ち解けてきたことを感じ、今度は涼太が聞いた。「ねえキミはここに住みこみなのかい?」