第08話 金魚鉢の底から 001

 気がつくと目の前にあるコンセントがバチバチと火花を散らしていた。「ここはいったいどこだろう」と涼太は床から身を起こそうとし、ガツンと頭を何かにぶつけた。「いてっ」と彼は首を引っ込めて、今度はその姿勢のまま、少し警戒をしながらキョロキョロとあたりを伺った。目の前では相変わらずコンセントが火花を散らしている。「埃にでも点火したらあぶないな」と思いつつもしばらく火花を見ているうち、その視線の先の床に落ちた一枚の花びら、まるで綺麗な透明の鱗のような花びらが見えて、涼太はあっと目を凝らした。スケルトンフラワー・サンカヨウ。「ああ、ここは犬神博士の屋敷の玄関先だ」そう気が付いて見ると、床の模様も下駄箱の木材も、小さく舞う埃でさえも、昨日と今日の二日間に見た風景そのままのようである。「つまりボクは今、博士の屋敷の中にいるんだ?」と涼太は驚いた。「いったい何故?」姿勢を低くしたまま、涼太は考えたがどうにも理由がわからない。わからないなら仕方ない、とにかく少し身体を動かし、自分の置かれている状況を判断しよう、と今度はゆっくりと手を動かしてみた。手は問題なく動いたが、ここは何かひどく狭い場所であるらしい。博士の家の玄関先に何があっただろうか、と涼太はいろいろ思い出そうとした。サンカヨウのビーカーに靴箱に、傘立て、博士用の椅子もあったような気がする。と、そこまで考えてハッとした。「ああ、これは博士の家の愛犬の出入り口だ。ボクは今、博士の犬の出入り口から屋内に侵入したんだ」何故、と一瞬考えたが、その答えは明白であった。「あの部分的透明人間製造薬を盗み出し、本物かニセモノか確認する、それが記者としてのボクの使命だったんだ」