第07話 コンサルティウム:闇の会議 004

 それから二時間ほどの間、涼太はマ・ムーシーとコホ・モリーにおだてられた。そしてそれらの言葉の間に、「誰もが正しさにしがみついて凡庸で終わるなか、キミは結果を生むだろう」「倫理なんかじゃない。正義は必要に応じて世界を動かす手の中にこそあるんだ」と、そんな言葉を吹き込まれた。いつの間にか会議は終わり、涼太は廃工場のわき道をヨロヨロと歩いていたが、どうして自分がそこを歩いているのかもわからないほどに意識が朦朧としていた。「とにかくボクは確かめなくちゃいけないんだ」とそのボンヤリとした意識の中、涼太は考えた。「犬神博士の透明人間製造薬は正真正銘の本物か、それともあれは何かのトリックでボクはからかわれただけなのか」フラフラと歩く涼太の上空をスチール・レクタングルが通過して、奇妙な蒸気の匂いがした。「正義のため、そう正義のため」とつぶやきながら涼太は廃工場から少し離れて、若宮川の河原を歩いた。ゴロゴロとした石の上を歩き、バランスを取り損ねてこけそうになった。「危ない」と誰かが腕を支えた。振り向くと警備担当のコホ・モリーが厳つい顔で立っていた。「あれ、カメラマンさん。先に帰ったんじゃないんレすか?」と涼太は少し怪しげな呂律でしゃべりながら、愛想笑いを浮かべた。コホ・モリーは何も言わずに涼太をひょいっと担ぎ上げ、ロールスロイス・ファントムの後部座席に放り込んだ。そして後ろに立っているマ・ムーシーに軽く会釈をして運転席に乗り込んだ。「あの記者で本当に大丈夫か」ファントムが走り去ったあとマ・ムーシーは少し憂えたが、「まあ、失敗すれば切り捨てよう。また次の駒を探せばよいだけだ」とすぐに頭を切り替えて、廃工場へと戻っていった。