第07話 コンサルティウム:闇の会議 001
黒いロールスロイス・ファントムは明かりの灯る町角を外れて川べりにある真っ暗な廃工場の方へと走った。上空には不気味な要塞、スチール・レクタングルが浮かび、それの付近に近づくものは雲でさえも角ばっていくように見えた。「あの? 編集部に戻りたいのですが」と車の後部座席から狸山涼太は不安そうに運転席のカメラマンに言った。カメラマンはまるで気にする風もなく、「大丈夫、大丈夫。今日は犬神研究所から直帰すると編集長には伝えてある。今日はオレに付き合え」と廃工場の脇に車を停めた。「ここはどこですか?」と涼太は表に出て暗い空を見上げた。その上をスチール・レクタングルが通過した。底部から絶えず蒸気と排気が排出され、暗い闇がさらに黒く塗りつぶされていくようであった。「こちらへ来い」とカメラマンは先に立ち、廃工場の壁にある通用口らしきものを押した。戸はギシリと軋んで開いた。「中に、何があるんですか?」と涼太は不安そうにあたりを見回した。「アムナス基礎技研ラボの会議室がある」とカメラマンは短く答えた。「アムナス基礎技研ラボ?」と涼太は聞き返し、「あの伝説の研究所ですか?」と尋ねた。「ああ、そうだ」とカメラマンは五月蠅そうに答え、「表向き、科学雑誌『ウェルズ』とアムナス基礎技研ラボは切れたことになっているが、地下では現在もつながっている。『ウェルズ』の運営首脳陣は今もって公正評議会すなわち政府から派遣されたアムナス基礎技研ラボ運営スタッフが牛耳っているんだよ」と言った。涼太はカメラマンの後を追いながら、「そんな会社の秘密をどうして入社したてのボクなんかに教えてくれるんですか?」とたずねた。カメラマンの向こうから、「キミを見込んだからだよ」と誰かが答えた。