第06話 非登録体(U-01)消失事故 004

「これはあくまで噂だけど」と雪之丞は前置きをしてから雪之丞は話し出した。今からちょうど二十年前、アムナス基礎技研ラボでは透明化装置『フェイズ・ベクター照射機』というものが造られ、マウスなどを使った動物実験がさかんに行われていた。それは透明になるのではなく、人体のすべての細胞を光の通過に最適化されたものへ変換するという装置であったという。高さは約三メートルで、旧式の蒸気制御パネルとプラズマエミッタが融合したような異様な外観をしており、リング型のアームの中にいる対象に多相位相干渉光線を照射すると、この対象が光の通過に最適化された存在へとなるという仕組みであった。時折死刑囚が連れてこられ逃げられない状態で実験されることもあったが、透明化した囚人の中には手足の感覚がおかしくなった者や空間から弾き飛ばされる者などもいたので、とても実際に用いられるレベルには達していなかった。そんなある日、施設内のセキュリティが一時的に解除されることがあり、そこに警察に追われた街の不良が逃げ込んできた。そして彼はちょうどマウス相手の実験をしていたフェイズ・ベクター照射機の光線をの前に飛び出して、光線を浴び、完全に透明化してしまった。これまで完全な透明化になった被験者はいなかったのに、この時に限って実験は大成功したのであった。そしてこの成功のおかげで不良は光も音も熱も反射しなくなり、存在の証明が不能な状態におちいった。実験に携わった科学者たちはが政府にこれを伝えると、政府はただちにこの事件を隠蔽し、さらにこの施設を閉鎖、ラボを自主解体させた。「と、まあそれから二十年。スチール・レクタングルは閉鎖された状態で、その異様な姿をさらしているということだ」