第06話 非登録体(U-01)消失事故 003
「それにアイツの目が気に食わないね」と雪之丞は珍しく他人を悪しざまに言った。「アイツって、あの記者?」と多聞は少し面白く思ってとぼけて尋ねた。「そう。あの記者」と、いつもは冷静な雪之丞がまるで感情をむき出しに、吐き捨てるように言い捨てて、「ボクはあいつの目が気に食わない」ともう一度同じことを言った。そんなにあの記者を嫌う理由はなんだろう、と多聞は研究所での様子を思い出し、「ははあ、もしかすると雪之丞のヤツ、嫉妬しているのかな」と考えた。あの記者、狸山涼太は誰が見てもわかる程に花恋センパイが好きな様子であった。それが気に入らないとすると、「雪之丞め。普段は花恋センパイを冷たくあしらっているように見えるけれど、本当は、心の底では好きなのではなかろうか? それで思いもよらぬ伏兵の出現にこう取り乱しているのではなかろうか?」多聞はチラッと雪之丞を見て微笑んだ。そして、「好きな子にわざと冷たくするなんてまるで小学生みたいなヤツだ」と少し勝ち誇ったような気分になった。「ねえ、多聞。ちゃんと聞いているかい?」と雪之丞はまだ何やら怒っているが、これが嫉妬からきている怒りであるなら、もうこの問題はいったん横にのけて、別の話題に変えてあげるのが武士の情けであろう。多聞はそう考えて、「それより、あのスチール・レクタングルはいったい何があって閉鎖されたんだっけ?」と尋ねた。雪之丞は一瞬キョトンとしたが、彼は元来が頭の回転の早い男であったのですぐに話題を転換した。「たしか二十年ほど前、『非登録体(U-01)消失事故』と政府関係者が名付けた事故があってね。その隠蔽のためだという話だね」多聞はさらに食い下がり、「それ、簡単に教えてよ」と雪之丞にせがんだ。