第06話 非登録体(U-01)消失事故 002

 スチール・レクタングルならわかる。若宮川の川べりにある閉鎖された工場の上にポツンと浮かぶ空飛ぶブロック要塞。「あれって、もともとは政府の出先機関の研究所だったけれど、何か事故があって今は閉鎖されたんだよね」多聞が聞くと雪之丞は頷いて、「そう。規則正しい直方体の合金世界。完全に自然と調和しない人工美を誇りとする研究所。あのスチール・レクタングルの中にあった政府の研究所こそがアムナス基礎技研ラボだよ」と答えた。「その、アムナス基礎技研ラボはいったい何の研究をしていたの?」と多聞が尋ねた。雪之丞は歩きながら答えた。「詳しいことは図書館に行って調べてみなければわからないけれど、ボクの記憶だと、どうも透明人間がらみであったような気がする」多聞はハッとして叫んだ。「なんだって。透明人間だって?」雪之丞は頷いた。「そう、透明人間。つまり今回の犬神博士の研究と、なんだかかぶるよね?」多聞は首を何度も縦に振って言った。「かぶるもなにも、同じじゃないか。博士のほうは部分的透明人間で、すこし出来損ないっぽ気もするけれど。それでも透明人間に違いない」雪之丞は立ち止まり、「そう。その博士の発明品のインタビューに来たのが科学雑誌『ウェルズ』、すなわちかつて透明人間の研究をしていたアムナス基礎技研ラボの傘下にあった雑誌の記者。これは偶然なのか必然なのか」と、最後はささやくように言った。これでようやく多聞にもわかった。「透明人間製造を目指していたラボと、そこの機関紙から始まった科学雑誌が、透明人間の薬と聞いた途端にインタビューにやってくる。あの変人で気難しくて超マイナーな気狂い科学者の犬神博士をわざわざ取材するなんて。なるほど、これはかなり怪しいな」