第06話 非登録体(U-01)消失事故 001
夕暮れ時の若宮市、犬神研究所からの帰り道。「それにしてもボクたち、消えた部分が手や足で、つくづくよかったねえ」と多聞は雪之丞にしみじみと話しかけたが、雪之丞は、「うん」と気のない返事をするのみで、まったくうわの空であった。マイペースな多聞は、しかしまったく気にもしないで、「それにしてもさあ。今日はどうして研究所に行くことにしたの?」と、再び雪之丞に話しかけた。そして、「ああ、取材が来るから行ったのか。雪之丞も案外ミーハーだなあ」と自分の問いに自答して笑った。雪之丞は肯定も否定もせずただボンヤリと何かを考えながら歩いている様子であったが、しばらくするとピタリと止まり、「やっぱりあの記者、怪しいな」とつぶやいた。多聞も止まって、「何がさ?」と尋ねた。雪之丞は多聞を振り返り、「科学雑誌『ウェルズ』ってさ、もとはアムナス基礎技研ラボの広報誌だったのがひとつの科学雑誌として独立し、その母体であるアムナス基礎技研ラボが閉鎖されてからも出版を続けている、そんな科学雑誌なんだぜ」と言った。多聞は、「ふうん?」と変な顔をして、「それで何が怪しいのさ」とまるで気の抜けたような質問をした。雪之丞は驚き、しげしげと多聞の顔を見て、「キミ、この町の出身だろ? アムナス基礎技研ラボと聞いても、なにも思い出さない?」と少し呆れたように言った。多聞はやはりまったく心当たりがなかった。町中の誰もが知っていることを、ひょっとしてボクだけが知らない? 急に不安に襲われた多聞は、「その、なむなむ基礎技研とかって、何?」と恐る恐る聞いた。雪之丞は頷いて、「空に浮かぶ四角い要塞、スチール・レクタングルはわかるだろう? あれだよ」と答えた。