第05話 臨床実験 002
「イザナギ、というと神様の?」と多聞が首を傾げ、「イザナギ景気とかって、何か社会の時間に習ったような気がするなあ」と涼太記者も考え込んだ。雪之丞は何かひらめいたらしくポンとひとつ手を打ったあと、同情のこもった目で博士を見て苦笑した。「イザナギ景気ってなんでしたっけ?」と涼太記者はそこがポイントだと思ったのかカメラマンに聞いていた。カメラマンもわからないようで首を横に振るのを見て、「高度成長期の好景気ですよ」と雪之丞が助け舟を出した。「車とカラーテレビとクーラーが普及して、空前の好景気に沸きあがったという、その現象に付けられた名称です」「ああ、なんだか聞いたことがある」と多聞も話に加わってきた。「で、その好景気がどうして透明になった部分と結びつくのでしょう?」と涼太はそれがすっかり正解のように思って博士に問いかけた。博士は、「違うわい、この馬鹿者どもが」と苦虫を噛み潰したような顔になり、「私の消えた部分というのは、あのイザナギの神様のいうところの成り成り成り余った部分じゃよ」と言った。「具体的には?」と雪之丞がとぼけて聞いた。博士はまた少しいい淀んで、「つまりその・・・」と言っていたが、やがて吹っ切れたように、「おちんちんじゃよ。おちんちんが透明になったのじゃよ。ええい、いまいましい。これでは取材を受けても写真を載せるわけにはいかんじゃろう?」と大声で言った。それを聞いた多聞は、「じゃあ、花恋さんはどこが透明に?」とまったく無邪気に花恋のほうを向いた。まさかイザナミの神様の成り成り成って足りない所? 「私は」と花恋はぽっと赤らんで少し躊躇してから、「私はこの薬が効きすぎる体質だったみたい」と言った。