第05話 臨床実験 001

「本当に危険はないんですよね?」とコップと薬を渡されて多聞は眉をしかめて言った。「私自身でも実験済みじゃ。大丈夫じゃ」と犬神博士は嬉しそうに太鼓判を押した。「あの博士の顔、やっぱりなんだか怪しいなあ」と多聞はまた口を尖らせた。「私も飲んだわ。効果は一時間ほどで消えるし、大丈夫よ」ゴスロリ姿の花恋が多聞の肩をポンポンと叩いて微笑みかけた。「ああ、花恋さんが飲んで大丈夫なら、大丈夫だな」と多聞は急に弛緩したように鼻の下を伸ばしてニヤついた。「それで、博士はどこが透明になったのです?」とコップを片手に、今度は雪之丞が尋ねた。するとそれまで饒舌であった博士が急に口をつぐんだ。「あれ、博士。なんだか顔色が悪いですね」多聞はそれを見て、また躊躇した。「そう言われれば気になりますね。どこが、透明になったのです?」涼太記者も目を光らせて尋ねた。「わ、私の理屈では、透明になる部分は個々人の体質によるもので、その効果のでる部分はランダムなのじゃ」と博士は返答にもならないようなことを言い出した。そして、「サンカヨウの花びらとコオリウオの鱗とガラスガエルの組織細胞を一対二対七の割合で混ぜ合わせてそれに黒焼のイモリとトカゲのしっぽを混ぜ合わせて・・・」とブツブツ呪文のように唱え始めた。「博士、作り方など聞いていません。それで、どこが透明になったのです」と涼太記者は鉛筆をペロペロ舐めながら追求した。皆に問い詰められて犬神博士はいよいよ困ったようにゴニョゴニョと、「それはすなわち、すなわちじゃなあ」といろいろ思考をめぐらしたあと、不意に開き直ったように憤然と、「イザナギじゃ。イザナギじゃよ。イザナギなんじゃよ」と怒鳴った。今度は皆がキョトンとして黙った。