第04話 不穏なお誘い 004
そうこうするうちに撮影の準備が整い、まずは犬神博士が演台に立って発明品の話を始めた。「今回の発明品は部分的透明人間製造薬、ケルベロールK-9。この薬を飲めば人間の体の一部分が透明になるという画期的なしろものだ。この錠剤を飲めばたちどころに効果が表れ、身体の一部分が消える。ある人は右手だけ、ある人は左手だけと、薬の効き目には個人差があるが、それがどのような塩梅でそうなるのかは今後の研究課題となっておる。とにかく私はマサチューセッツ工科大学の研究室に先んじてこのケルベロールK-9を世に送り出すことができることを誇りに思っている」涼太記者はせっせとメモをとり、カメラマンはパシャパシャとフラッシュをたき、花恋はパチパチと拍手をした。雪之丞は黙って博士の演説を聞き、多聞もその横にじっと腰をおろしていた。が、博士があまりにも楽しそうなことが少し癪にさわったのか、「それで博士、その部分的透明人間製造薬がいったいなんの役にたつのですか?」とついつい余計な口をはさんだ。博士はギロリと多聞を睨んだ。「何の役に立つかは、それを用いるものが考えればよいことじゃ。私はただ発明したいから発明したのだ。マロニーも言っていたじゃろう? なぜ山に登るのか? それは山がそこにあるから」「博士」とまた多聞が手をあげて言った。「それ、マロニーじゃありません。マロリーです。ジョージ・マロリーです」博士は烈火のごとく真っ赤になって多聞に怒鳴った。「マロニーもマロリーも私にとっては同じようなものじゃ。くそうこのハエ男め、お前をウジ虫に変えてやろうか」多聞は青ざめ、「ひええ」と首をすくめた。「そろそろ実演を始めてもらってもいいですか?」と涼太記者が呑気な顔をして言った。