第04話 不穏なお誘い 003

 並木道で花恋と落ち合い三人で犬神博士の研究所に行くと、すでに科学雑誌『ウェルズ』の狸山涼太記者が来ていた。服装は前日と同じく、まだ身になじんでいないようなピカピカのスーツであったけれど、今回は前回とは違い、大柄で厳ついカメラマンも一緒であった。涼太は花恋の姿を見かけると、「昨日はおいしいハーブティーを、ありがとう」と声をかけ少し熱を帯びた目で彼女を見た。花恋は何も気づかない感じで、「ごくろうさまです。今日もよろしくお願いします」と頭を下げ、屋敷の方に去って行った。「ずいぶん若い記者だな?」と雪之丞は二十代前半の、少し野暮ったげな記者を冷たい目で見ながら言った。「若い記者? へへえ、自分は高校生のくせに?」と多聞は先ほどの仕返しとばかりに雪之丞をからかいながらチラリと記者の方を見た。するとその向こうに犬神博士の姿が見えてたので慌てて首をすくめた。犬神博士は透明な花を見ていたが、どう気配を察したものか、急に振り返り多聞を見つけ、「おお、世紀のハエ男。よく来たな」と人差し指でメガネを押し上げてニマリと笑った。多聞は引きつり少し後ずさりして、「ボク、やっぱり帰ろうかな。なんだかこのままここにいると、その後の人生をそこはかとなく損なうような気がしてきた」と雪之丞に耳打ちした。「まあ、大丈夫じゃない?」と雪之丞は軽く聞き流した。そこにスタッフの衣装であるゴスロリ風の黒づくめに着替えて花恋が戻ってきた。「花恋さん、やっぱり綺麗で可愛いな」と多聞はそれにぼんやりと見とれた。「ああ、本当に」と涼太記者が上気した顔でつぶやいた。雪之丞はそんな二人の様子を眺め、「彼女、出会ったころはコブタちゃんだったのにねえ?」と興味深そうにつぶやいた。