第04話 不穏なお誘い 002

 まさかこうもあっさりと断られるとは思っていなかった花恋センパイは驚きに大きく目を見開いて、「ま、待って」と二人を呼び止めた。そしてその声に反応して振り向いた多聞の横をすり抜けて雪之丞の手を取って言った。「ねえ、雪之丞くん。お願い。今日はどうしても来てほしいの」雪之丞は振り向きもせず手を振り払おうとした。花恋は振りほどかれまいと指にぎゅっと力を込めて、「科学雑誌『ウェルズ』の記者が来て、どうしてもそこで研究品の効果を見せなければいけないの」と懇願した。「ウェルズ?」と雪之丞は足を止めて聞き返した。「そう、ウェルズ」と花恋は雪之丞の左手を両手でぎゅっと握りしめて繰り返し、「ねえ、来てくれるならほっぺたにチュッしてあげるから。ねえねえ」と少し甘えるように言った。「チュ、チュッって?」と多聞が目を丸くして雪之丞の顔を覗き込んだ。雪之丞は多聞に、「ばっか。花恋さんの冗談だ」と言ったあと、花恋の手を軽く振り払い、「まあ花恋さんとは幼いころからの腐れ縁だ。あとで研究所に顔をだすよ」と仕方なさそうな顔をした。「一緒に来ないの?」と花恋は少し不安そうに尋ねた。雪之丞はクスッと笑い、「だって美少女先輩とふたりで校内を歩いたりしたら誰に刺されるかわからない。剣呑剣呑、君子危うきに近寄らず」と言ってから、「まあ、それでも心もとないなら正門横の並木道あたりで待っていて。すぐに追いつくから」と軽く片目を瞑って見せた。祇園雪之丞、なんてキザな奴。多聞はまったく感心してしまった。それからふたりのやり取りを思い返し少し口を尖らせた。「ねえ、雪之丞。花恋センパイと一緒に帰っても二人じゃなく三人だと思うんだけど?」