第04話 不穏なお誘い 001
放課後、教科書を鞄にいれてそろそろ帰ろうかと身支度をしているところに相沢花恋センパイが来て、「今日は忙しい? おいしいシフォンケーキがあるんだけれど、ちょっと研究所に来ない?」と蠱惑に満ちた笑みを浮かべて問いかけた。唐猫多聞は顔を上げ、我知らずパッと満面の笑みを浮かべて、即座に頷こうとした。美少女先輩とシフォンケーキ。この二つの誘惑に心を動かされぬ男子高校生などいようものか。(いや、いるはずがない)多聞はまったく行く気満々であった。しかし行く気満々でありながらも隣を向いて、「どうしよう?」と気弱げに聞いてしまうところが、優柔不断な多聞の多聞たる所以であった。隣にいた祇園雪之丞はそんな多聞をチラリと見てそれから花恋に目を移し、「また博士がなにか発明したんだね?」と、いたって冷静に問いかけた。途端、多聞は、「ひえっ」としり込みをして、「ああ、そういうことですか。これは犬神博士がらみのお誘いですか?」と少し青ざめて問いかけた。あの気狂い科学者のお誘いに乗ってろくな目にあったためしがない。前回、花恋センパイの微笑みとチーズケーキにつられてひょいひょいと研究所に踏み込んだ時は、人体改造機なる機械にかけられ、ハエと細胞を組み合わされてあやうくハエ人間にされかけた。その前はロールケーキに騙され、精神融合装置に掛けられて、危うく近所のノラネコと精神を混ぜられそうになった。「博士のお誘いなら、ボクは遠慮したいです」と多聞は何度かの経験で学習し、もうシフォンケーキくらいでは騙されないという構えを見せた。「というわけで花恋さん。ボクと多聞は一抜けするので他をあたってくださいな」雪之丞は席を立ち多聞の肩をポンポンと叩き、「さ、帰ろうぜ」と言った。