第03話 透明な脊椎動物 004
「ガラスガエルは面白い。脊椎動物でありながら透明化を成し遂げた画期的な生き物じゃ」と博士は話を続けた。「ガラスガエルの背中の側は葉と同化する緑色である。しかしその腹部からは内臓が透けて見えるほど透明である。それがどういったメカニズムであるかというと、かのカエルは透明化する時、血液の循環から赤血球を一時的に外す、すなわち赤血球の中にあるヘモグロビンを隠してしまうのじゃ」涼太は尋ねた。「先ほどもヘモグロビンが出てきましたが、そもそもヘモグロビンは何色なのですか?」博士は言った。「赤じゃ。ヘモグロビンは鉄分によって赤く染まっている。すなわち血が赤いのはヘモグロビンの影響じゃよ」「なるほど」と涼太は頷いてせっせとメモをとった。博士は構わず続けた。「つまりガラスガエルと同じように、たとえ一時的にでもヘモグロビンを隠せたなら、透明な肉体は可能となる、理論上はそうなるわけだ」涼太は黙って書き続けた。博士は話し続けた。「ただし赤血球を一時的にでも隠すなど、普通にできないし、もしできたとしてもコオリウオの時と同様に酸欠のリスクを抱えることになる。人間がおこなうには危険すぎる行為である。また人間はガラスガエルやコオリウオと違い、内臓や骨などの不透明な構造が多すぎて、局所的な透明性ではとても追いつくものではない。いろいろ悩んだあげくようやく私が考え至ったのは、局所的に見えない、体の一部だけ透明にすることじゃ。そう思って見てみると、アメリカのマサチューセッツ工科大学では、透明なバイオスキンや、細胞をスケルトンにする化学処理技術を研究中であるという。しかし私の発明はもっとすごい。この薬が発表されればノーベル賞は確実じゃな」博士も存外、俗っぽかった。