第03話 透明な脊椎動物 003
「コオリウオの透過システムを人間に応用しようとした場合、人間はまず即死する。ヘモグロビンは酸素を体内に供給する役目を担うが、もし人間がそれを持たないとなると、血液で酸素を運べなくなる。これでは生きていられない。また筋肉や内臓を透明にするには、生体の基本機能を犠牲にしなければならなくなる。もしそれでもコオリウオの特性を生かして人体を透明化するならば、人工臓器やロボットの透明ボディなどを利用するしかない。いや、実際に医学的標本用途としては、死後の組織を透明化する「CLARITY」「SeeDB」などの生体透明化技術は既に存在している。しかしそれは肉体が死んでからの透明化である。ねえキミ、死んで透明人間になってもあまり意味はなかろう。そして私が行きついたのがガラスガエル(中南米の樹上性カエル)のメカニズムである」博士は一気にまくしたてた。「コオリウオのシステムは、死ななければ実現できない」涼太はボンヤリそう考えてハッとした。先ほどのスタッフ、まるで透き通るような青白磁の肌を持つ美少女。彼女はもしかすると死んだ人間ではないのかしらん。犬神博士はその死んだ彼女に何らかの処方、確かクラリティとか何とかと言う生体透明化技術といったものを施して透明にし、そして何らかの方法で生き返らせた、いや、生きているようにふるまえるようにしたのではないかしらん。そう、かのフランケンシュタイン博士のモンスターのように。なるほど、そう考えると彼女のあの綺麗すぎる美貌も何やら腑に落ちる気がする。彼女はこの世のものではない? パンと目の前で手のひらが鳴らされ、涼太はハッと我に返った。博士は厳しい顔つきで、「ちゃんと最後まで聞きなさい」と言った。