第03話 透明な脊椎動物 001
犬神博士が百面相を展開し、泣いたり騒いだりと大騒ぎしながら熱弁をふるっている所に、不意に扉がすっと開き、「博士、お茶をお持ちしました」とスタッフのひとりが入ってきた。少し食傷気味になっていた涼太は、「ああ、助かった」と振り返り、途端なんとも器用にズルンと椅子から転げ落ちた。そして目をまん丸に見開き、口をポカンと開けたまま思わず彼女に見とれてしまった。そこにはフワフワのスカートに黒のジャケット、頭には羊角のカチューシャをつけているというまさに小悪魔的な服装をしたゴスロリ風の美少女がいた。涼太が尻もちをついたまま、金魚のように口をパクパクとさせると、肌色というより青白磁のような、妙に透明感のある肌の色をしたその美少女は、「こちらはハーブティー。インドの薬草ゴツコーラと南米パラグアイのマテ、それにイオニア諸島のローズマリーをブレンドしたもの。集中力が高まりますよ」とトレイに乗せたお茶のセットをテーブルに置いた。涼太はなんとか身を起こして椅子に腰掛け、「ありがとう」と何もなかったかのような顔で彼女に礼を言った。彼女は、「ごゆっくり」と微笑んでそのまま部屋から出て行った。涼太はしばらくボンヤリ彼女を見送ってたが、犬神博士はそれをチラリと見ながら、「まあ、キミ。ハーブティーでも飲んで少し気を落ち着かせたまえ」と手づからコップに茶を注いだ。涼太は心ここにあらずといった態でそれを飲んだ。博士もひとくち茶をすすって、「さてキミ、いよいよ話も佳境に近づいた。つまり新文明のためには微細な弊害など目をつむらねばならん、ロスアラモスでは皆おおむね満足している。ということで、ここからが発明品の核心、透明な脊椎動物についてじゃよ」と続きを話し出した。