第01話 スケルトンフラワー 004
透明な細胞を持つサンカヨウの花が白く見えるのは、先ほども言った通り、表面がポンジ状の構造をしていて、そこに空気を含んでいるためである。空気と細胞の屈折率の違いが光を乱反射させて、それで花弁は白く見えるのである。つまりこの花弁に含まれる空気が水と入れ替わったならば、花弁はすべて同じ屈折率となり、このため光はそのまま反射せずに通過していく、それが透明化のプロセスである。そんな話をしたあと、「牛乳や霧が白く見えるのも、光の乱反射の影響で、このサンカヨウの花弁もそれによって白く見えているだけのものであるから、本来的に透明なものであるのだ」と博士は締めくくった。涼太はメモする手も止めてポカンと博士の顔をみた。透明な花が透明化する構造。もともと透明である細胞、水と空気の屈折率の違い。博士に聞いた話を整理しようと涼太がグルグルと考えていると博士は再び口を開き、実に驚くべきことを言った。「実は人間の細胞も水に近い屈折率なので、単一の細胞レベルではかなり透明なんじゃよ」涼太はグルンと振り返り博士を見ながらゆっくり尋ねた。「人間の細胞も、透明、なのですか?」博士はフォフォフォと怪しく笑い、「まあ、そうじゃな」と涼太の目をじっと見た。涼太の額に汗が滲んだ。「ひょ、ひょっとして、博士の今回の発明品は、その透明な細胞と何か関わりがあるのですか?」博士は黙って頷いた。涼太は再び手帳を開いて鉛筆を舐めながら尋ねた。「透明人間、ですか? ひょっとして博士の発明品というのは、透明人間透明人間を作る方法とか、そんな類のものなのですか?」博士は黙って椅子に座り、涼太にも椅子をすすめながら言った。「さて、それに答える前に、もう少し話を聞き給え」