第01話 スケルトンフラワー 002

「ああ、これはすみません」と青年は名刺を一枚取り出して犬神博士に手渡しながら、「本年より科学雑誌『ウェルズ』の記者となりました狸山涼太と申します。今日は博士の画期的な発明の噂を耳にしまして、雑誌の記事に取り上げさせてもらえればと思った次第でございます」と丁寧に頭を下げた。博士は彼から名刺を受け取ると、メガネをクイクイと上げ下げし、まず電球の明かりにすかした。次いで水道の蛇口をひねって水をかけ、果ては自分の口に入れ歯で噛んでみた。そして、「ああ、これは普通の名刺じゃな」とつぶやくと、あっけにとられてポケッと突っ立っている涼太記者の肩をポンポンと叩き、「では、ついて来なされ」と博士の書斎へと案内した。書斎は屋敷の地下にあった。二十段ほどもある階段を降りると、一畳ほどの床があり、その正面に古いオーク材の扉があった。その扉を開けるとやけに天井の高い博士の書斎があった。天井には天窓がひとつ備え付けられ、部屋の広さは八畳ほどであった。四方の壁が本棚となっての八畳であるので、実際、奥行きの深いその本棚を考慮しないならば、広さは倍ほどになると思われた。その本棚には古びた書物や論文などが並べられているほか、標本の硝子瓶や鉱石の欠片、実験道具らしきものも置かれていた。それらを眺めてから涼太はふと中央の実験台の上を見た。そこには木製の飾り台が置かれ、丸底フラスコがみっつ並べてぶら下げられていた。そしてその一つ一つから茎が伸び、上には葉が茂っていた。「これもサンカヨウじゃよ。もうすぐ花も開くじゃろう」と博士は言った。ここで涼太はハタと気が付いた。「ああ、スケルトンフラワー。博士の今度の発明品とそれは何か関係があるのですね?」