ボーンコレクター 04-11

 気が付くと薄暗い部屋にいた。壁に蝋燭がユラユラと揺れ、結構な数の人が長椅子に腰かけて眠っている。「ああ、ここは骨の記憶館の中」と彼は思い出した。ボクは彼女の記憶に紛れ込み、二人で楼蘭を彷徨った。足元に靄のようにたちこめた煙。まるで雲の上にいるような雰囲気。「そう、これが彼女の記憶。この部屋には彼女の記憶が溢れている」そしてふと思った。この記憶館の煙は皆に同じ風景を見せるのであろうか? それとも彼女の記憶の断片の、その一部分だけをそれぞれの人に別々に見せるものなのであろうか? 彼女と溶けあった記憶がもしボクと彼女だけの体験でないならば、それは少し寂しい気もする。あの湖底の図書館で、じゃれ合った記憶。彼はまだ半分夢見心地でぼんやりとあたりを眺めていた。と、不意にどんと乱暴に扉を開けて一人の男が飛び込んできた。「誰も動くな。そのまま座って手を頭の上に上げろ」彼はそう怒鳴りながら懐中電灯で室内にいる人々の顔を照らした。しかし室内はしんとして誰ひとり、身動き一つしなかった。「みな寝ているのか?」勢い勇んで飛び込んだだけに彼は何やら拍子抜けしたような気分に襲われ、ただ徒に懐中電灯の灯りをチラチラさせた。「何か御用ですか?」と奥の部屋からスカル博士が出てきた。ようやく動いている人と会い、彼は少しホッとしたように言った。「私は衛生管理局のサーロイン隊員である。この研究所で何やら不衛生な催しをしているようだと通報があったので調べさせてもらう」「そうですか?」とスカル博士は平気な顔で返事をし、「ではご自由に」と手に持っていた煙をサーロイン隊員の鼻先で放った。隊員はそれを吸い込み、ヘナヘナと崩れるように座り込んだ。そして楼蘭の町へと旅立った。