ボーンコレクター 03-10

 鳥のさえずりに目を覚まし、朝日を浴びながら伸びをして、「昨夜のことは、すべて夢だったのかしら?」と彼女は考えた。そして、のろのろとベッドから起き上がり、洗面台で顔を洗いながら、「夢だとしたら、私、欲求不満なのかしら?」と考えて、我知らず頬を赤らめて、鏡から顔をそむけた。そして洗面台からそそくさと離れトースターでパンを焼きながら、「でも、あんな夢を見る原因、なにかあったっけ?」と前日の自分の行動を思い浮かべた。昨日も普通に出勤し、局長から下された任務に則り、三人の部下とターゲットの会社に乗り込んで、悪い社長を懲らしめた。少し後味の悪いところもあったけれど、それはこの職場にはツキモノの、往々にしてあることなので、いまさら気にすることでもない。仕事が終わって電車に乗って、帰宅途中にラーメンを食べて、家に帰ってからウイスキーを飲んで。「では、あれはお酒のせいで見た夢だったのかしら?」そう思ったがどうも腑に落ちない。あれくらいのウイスキーで変な夢を見るのなら、もっと毎日でも見そうなものだ。そう考えるうち思考が夢の内容に戻った。しかし本当になんて夢? 何人もの男たちに犯されて殺されて。砂漠を彷徨い心臓を探し、その挙句には変な老人にオシッコをかけられてしまうなんて。と、そう思いだしてハッとする。そういえば、あれは誰だったのかしら? 私と一緒に虎に乗っていた男前。少し風変わりな雰囲気ではあったけれど、わりと端正な顔立ちをしていたあの人。「なんだか以前にも会ったような?」そう思いながら彼女はグルリと部屋を見回し、ちゃぶ台の上にグラスがふたつ並んでいることに気が付いて、あっと息をのんだ。「少なくとも半分は夢じゃなかったみたい」