悪霊荘奇譚 01-02
「一階にはイギリスや支那やアラビアなどをモチーフとした部屋のほか、英国封建時代式の大部屋、浴室、便所、事務室など実務的な部屋があります。また二階にはインドやエジプトの部屋のほか、廻廊式書庫や客室などがあります。そして地階にはこの阿具良韋荘に来たすべての客の胃袋を満たすべく作られた調理場があります」光瑞法王は滔々と語り、見学に入った人たちは、そのすべてに驚かされた。白と黒の大理石がオセロの盤のように敷かれたペルシア室。「これはスペインのアルハンブラ宮殿の王室風です」と光瑞法王は言って部屋に招き入れた。部屋の中央には四角い噴水が配置され、周囲にはベゴニアやコケ類を入れた鉢が置かれていた。その隣のイギリス室に入ると、白土で塗られたの大きな梁が天井に巡らされ、鹿の角や頭蓋骨が壁に飾られていた。椅子も机もすべてイギリス風の素朴で頑丈な作りとなっていた。その隣のインド室はアクバル皇帝時代の大臣の部屋を模したもので、黒色大理石の壁には雑多な宝石やインド壁画などが飾られていた。エジプト室にはパピルス模様と彫刻、ナイル河畔の大壁画やピラミッドの大壁画などが飾られていた。それを南に抜けた屋外のベランダからは南の庭、通称毛先庭が見下ろされた。毛先庭は花の文様や色彩をいろいろ組み合わせて造った庭で、中央には人工的な純インド風の泉が配置されていた。こうした本館を中心に敷地内には三本のケーブルカーが引かれていた。純白の窮屋と称せられる白亜殿、天候を予測する測候所、図書館と宿舎の役割を果たす巣鶴楼、これらがそのケーブルカーで結ばれていた。明治から大正に変わる間際のその時代において、阿具良韋荘の敷地内はあたかもひとつの未来都市のようであった。