アングラ劇『犬神ぢごく変』 19-02

玉梓「その善人が一番怖いのよ。自分たちの正義に合わない敵を見出した時の奴らの怖さ」
福徳「そんなものをむやみに弄んではいかんじゃろう」
玉梓「弄ぶも何も。奴らは自ら正義のために立ち上がったんじゃ。善人が悪人を裁く、それが正義というものじゃからのう」
福徳「やれやれ、お前とは何を話しても平行線であるな」
玉梓「何の。こう言いつつも妾は最初、ほんの少したきつけただけじゃ。その後は奴らが自ら考えて、自ら行った結果であると妾は思うぞ」
福徳「果たしてそうであったかのう?」
玉梓「そうじゃ。村人は妾の言葉を聞いてそれを自らの善悪と照らし合わせたのち、犬を埋めて娘を焼いた。そして今また、申秀の遺体を前にしながらも、それでも少しでも多くの小判を袖に隠そうと努力しておる」
福徳「少しの欲は大目に見てやれ。みな善良な小市民ではないか。ああしてほんの少し自分の袖の下に隠したとしても、残る多くの小判は今後の村のために、そして亡くなった申秀一家のために使おうと相談したではないか」
玉梓「なに、それも薄汚い自己保身のためよ。誰も村八分になりたくない、犬神統だと言われたくないから自己の欲望を少し押さえ、村のためと口にするだけよ。申秀一家を祀るのとて同じ。何といっても祟りは怖い。だから己の身を守るため申秀一家を新たに祀ると決めただけよ」
福徳「ああ、お前はどこまでうがった見方をする奴じゃ」