アングラ劇『犬神ぢごく変』 19-03

玉梓「うがってはおらぬ。これが真実だと妾は思うぞ。それにそなたとて妾と同じような意地悪を申秀にしたのではないか?」
福徳「ワシが何を?」
玉梓「隠さずともよい。奴はお前に祈ったあと、描きたい対象が変わったがそれはどうしてであろうな? 花鳥図では日本一になれないとお前が踏んだからではないか?」
福徳「それは邪推というものだ」
玉梓「いいや、邪推ではあるまい。お前は祈願されたからには意地でも願いを聞き届けてやろうと考えたのであろう? それで長閑な鳥や獣の絵から、陰惨な死骸や地獄の絵に画題を切り替えさせたのであろう?」
福徳「もうよい。お前と話しておるとこちらまで心が汚れる」
玉梓「まあ、お前のことなどどうでも良いが、どのみち妾は人間などその程度のものだと思う。利己的で欲張りで、いつでも他人というものに対して狼となり得る存在であろう」
福徳「いや、そこまで酷いものではないであろう。確かに欲に目がくらんで小狡い行為を働いたり、人を押しのけようとすることもあるが、その根源にあるものは悪ではなく善であると思う」
玉梓「妾は善悪を問うているのではないが、まあいい。何かにつけてお前との話はいつも平行線で終わる。
福徳「ともかく、ワシとそなたとどちらの目が正しいか、これからも共に村の行く末を見守っていくことで見出そうではないか」
玉梓「ふふん、大通りを挟んだあちらとこちらに別れてな」
福徳「ワシは善人の善人たる故に善なるをあくまで信じている」