アングラ劇『犬神ぢごく変』 19-01
第十九幕
申秀の死体を呆然と見上げる村人たち。それを遠くから眺める玉梓の神とその横に立つ福徳の大神。
福徳「なにも殺さずとも良かったではあるまいか?」
玉梓「妾よりお主を選んだ。その報いであるよ」
福徳「奴は絵師であった。絵師としてワシを選んだは道理ではないか?」
玉梓「道理だけでこの世は渡れぬ。この世はとかく不条理なものよ。そう、あ奴は妾の自尊心をいたく傷つけた。それは報われて当然のことよ」
福徳「ではどうすれば良かったというのだ?」
玉梓「日本一の絵師など目指さず村の隅でひっそりと暮らしておればよかったのじゃ」
福徳「なんとも身勝手な言い分であるのう」
玉梓「何とでも申すがよい。妾とにかく奴を困らせてやらねば気が済まなくなったのじゃ」
福徳「それで巫女に姿を変えて村人たちをたきつけたのか」
玉梓「ああ、そうじゃ。愚かな村人と申秀はもともと考え方が違っていたからのう。ほんの少し脅してやれば、もう恐怖にかられてどこまでもやるわい」
福徳「村人は誠に、どこにでもいるただの善人たちであったのにのう」