アングラ劇『犬神ぢごく変』 18-01

   第十八幕


 秋祭り。男たちは神輿を出し、女たちは料理を並べこの目出度い日を祝っている。酒樽が割られて皆が陽気に騒ぐ中、一人の男が鳥居を見て、驚き指差す。一同が見上げるとその鳥居の上に申秀が立つ。


申秀「さても目出度いお祭りじゃ。おのおの楽しんでおるかのう?」
村長「おお申秀。お前、そんなところで何をしておる」
申秀「皆と一緒に祭りの見物でござるよ。それとも何か? ワシの一族は犬神憑きの一族じゃから祭りの見物もいかんかのう?」
村長「誰がそんなことを言うた。お前はこの村の英雄じゃないか」
村人「そうじゃ、そうじゃ。あの物凄い地獄変を描き出し、大尽からたんまりと謝礼をもらった、我が村の英雄じゃないか」
申秀「そうか。ワシは英雄か」
村長「ああ、あんたは英雄じゃ。じゃから鳥居の上になどにいないで降りてこい。危ないではないか」
申秀「ワシのことは気にするな。おう、どんどん見物が集まって来たな」
村長「娘のことは気の毒じゃが仕方なかったんじゃ。しかし、それでいい絵が描けたんじゃから、お主も良かったじゃないか」
村人「そうそう。焼け死ぬ伏姫を恍惚と眺めるお主は、さすが絵の鬼であると思ったぞ」