アングラ劇『犬神ぢごく変』 17-02
大尽「秦広に初江に宋帝に五官王。閻魔に変成に太山に平等。そして都市に五導転輪」
幇間「あとは一面の阿鼻叫喚。牛頭馬頭に追われて血の池を渡る陰陽師の、この必死の形相の面白さ」
大尽「この殿上人が怪鳥に追われて泣き叫ぶ顔もなかなかじゃ」
幇間「数珠を首から下げた念仏僧の血の池に溺れるも真に迫ってなかなかですな」
大尽「そうじゃそうじゃ。しかし何といっても、最も恐ろしいはこの木に吊るされた美しい女御よ」
幇間「さようさよう。崖から噴き上げる地獄の猛火に焼け苦しむこの娘。まるでその肉の焦げる匂いさえ漂ってきそうでございまするな」
大尽「そして燃え上がる樹木に噛みつく犬」
幇間「炎の中から飛び出した獣。これが娘を助けようともがくが、結局は焼け落ちるのでございますな」
大尽「いやいや。ほんにたいした出来栄えじゃ。これはきっと後の世まで語り継がれる地獄変となろう。さあ申秀よ、約束の金子じゃ。先に渡したものの倍はあるから喜ぶが良い」
申秀「はあ。有難き幸せ」
大尽「うむ、もう下がって良い。お前はどうも陰気でかなわん」