アングラ劇『犬神ぢごく変』 17-01

   第十七幕


 蔵持の大尽の奥座敷。出来上がった屏風を前に息を飲む大尽と幇間。申秀、陰気な顔でその前に座る。座敷の隅にはうずたかく積まれた小判。


大尽「いやまことに鬼気迫る出来栄えじゃ」
幇間「ほんに、ほんに。あっしも職業柄いろんな地獄変を見てきましたが、申秀の描いたものが最高じゃ」
申秀「まことに、恐れ入りたてまつります」
大尽「またか、申秀。お前はどうも堅苦しくていかん」
幇間「そうじゃ、そうじゃ。あんさんもあっしみたいに気軽に話しなさいな」
大尽「お前はいささか軽すぎじゃがな」
幇間「へへい。面目次第もございませぬ」
大尽「して申秀。そのほうこの地獄変を描くにずいぶん苦労したようじゃが、何かあったのか?」
申秀「いえ、何もございませぬ」
大尽「申秀はどうも陰気でかなわんのう」
幇間「まあまあ、蔵持の大尽様。あっしがいるではございませんか。あっしがぱあっと明るく地獄の解説をいたしましょう」
大尽「お前に地獄がわかるのか?」
幇間「わかりますとも。まずこの右の片隅にいるのが十王でございましょう?」