アングラ劇『犬神ぢごく変』 16-02
巫女「さあ描きなさい申秀。福徳の大神の力を借りて、思う存分描くのです」
申秀「星空を衝いて荒れ狂う火焔。一面を覆いつくす黒煙。熱さにもだえ苦しむ娘と主人と共に焼ける犬。おお、素晴らしい、素晴らしい。これぞまさに焦熱地獄。死する娘に幸あれ。八房よ、成仏するがよい」
村長「木は根だけを残して焼け落ち、まだ煙をあげておる」
村人「その前に転がる二つの黒焦げ。それは犬と娘」
村長「哀れと言えば、これほどの哀れはあるまい」
村人「しかしその二つの亡骸を嬉々と写生する、あの絵師の至福の表情はどうだ?」
村長「ああ、絵師などにはなりたくないものだ」
村人「ああ、芸術家などにはなりたくないものだ」