アングラ劇『犬神ぢごく変』 16-01
第十六幕
炎の中に降り立つ八房。伏姫を背負いゆっくり木から下ろす。村長は巫女の背後に隠れ、村人はじりじりと後退りする。しかし炎の輪から逃れ出る前に八房ばたりと倒れる。伏姫、その上に覆いかぶさるように倒れる。
姫「ああ、八房。可愛い八房。お前はどうして戻ってきたのです」
八房「おおん、おおん」
伏姫「せっかくお前を逃してやったのに」
八房「おおん、おおん」
伏姫「ここは熱くて苦しいですね」
八房「きゅうん、きゅうん」
村人「ああ、伏姫が崩れ落ち、その上に八房が覆いかぶさった」
村人「ふたつの命はここに尽きぬ」
申秀「燃える炎、その中に焼かれる犬と娘。なるほどこれは美しい。地獄の極致は焦熱にあり」
村長「おお見よ。申秀が筆を取り出して、ああ、絵を描き始めた」
村人「目を爛々と輝かせ、次々と何かを描きだしている」
村長「これぞまさに狂気。焼けただれて死ぬ自分の娘を、どんどん描写していくあの顔」
村人「喜びに満ち溢れたあの顔。恍惚としたあの笑顔」