呪いで人は殺せるか? 問題編12
小野家の門を出たところで警部は鼻の穴を膨らませて言った。「刑事として培ったの長年の勘と人相見としての見識、その両方があの五百子を怪しいと云ふ。ワシはやはり彼女が犯人であると思う」名探偵は、「でもそうだとしたら、彼女は二重の密室を破ったことになるのですね?」と茶化すように言った。警部が不思議そうな顔をすると名探偵は少し説明口調で、「だってそうでしょう? まずひとつめが樽の密室。そしてふたつめがこの樽のあった家。これは窓も扉も施錠されて、外部から誰かが侵入し、また脱出するということはちょっと難しい。ほら、この家も密室なんですよ」と言った。警部は再び苦しげな顔をして、「ううむ。そうか二重の密室か。問題点がさらに増えたというわけか」と髪をかきむしり、「これはやはり呪いの仕業に相違あるまい」と唸った。名探偵は、「フフフ」と悪戯っぽく笑って、「二重の密室で凶器もなし。ただ死体だけが現れる。しかし警部、これは呪いなんかではなく、ちょっとしたトリックで作られた密室だと思いますよ」と言った。「なんと。お前さんにはこの密室のカラクリが分かったのか?」警部は目を丸くして尋ねた。名探偵はそれに答え、「たぶん、おそらく。これで間違いはないでしょう」と言った。警部は言った。「ヒントは? ヒントを教えてくれないか?」名探偵は言った。「簡単なことです。さっき付け足した二つ目の密室。これは五百子が犯人なら突破しなければいけない問題だけれど、何もしないでもすでに突破している人がいるでしょう? 犯人はその中にいるはずです」「犯人はその中に?」「そう。その密室の内側にいた人たち。その人たちが何か怪しげな行動をしていないかどうか、それをチェックするのです」