呪いで人は殺せるか? 02-01

「最初に聞かれて答えた通り、呪いで人を殺すことは可能であるとボクは思っていますよ」と喫茶店の席に着くなり名探偵は言った。警部は、「さもありなん」と満足そうに頷き、「よし、五百子を引っ張って泥をはかせよう。どんな恐ろしい呪術を用いたのか、赤裸々に暴いてやろう」と息巻いてから、「しかし実際は違う奴が犯人なんだよな」とがっかりしたように言った。「珈琲ふたつ」と名探偵は店員に声をかけ、「まあ順々にお話ししますから、ここはおごりですよ」と言ったあと、「長年の勘も人相見も忘れて、もう一度冷静に事件を見直していきましょう」と微笑んだ。「では何から見て行けばいい?」と警部は力なく言った。「そうですね」と名探偵は少し考え、「まず容疑者の絞り込み。ここから行うのが良いでしょう」と言った。「容疑者の絞り込み、というと、さっきお前さんが言っていた話だな。小野五百子が犯人なら二重の密室を破らなければならないけれど、別人物ならその密室は存在しない」警部がそう言ったところに、トレーに乗せた珈琲を持って店員が来た。「お待たせしました」と店員は言い、テーブルに珈琲を二つ並べ、「ごゆっくり」と言って去って行った。名探偵はその一連の作業を黙って眺め、店員が去ってから口を開いた。「そうです。五百子を犯人と考えるから警部には家も密室に見えた。しかし家の中にいた人物を容疑者と考えたなら、密室はひとつとなって。ほら、このほうがずいぶん合理的ですね?」警部は珈琲を口に運び、「うむ」と頷いた。そして、「犯人は家の内側にいたのだな」と言い、「伊兵衛と松子と山伏と。この三人の中に犯人がいるということなんだな?」とみっつの名前を並べた。