アングラ劇『犬神ぢごく変』 12-01

   第十二幕


 伏姫は八房の上にダンビラを振り上げる。八房は観念したように目をつむる。伏姫の目から涙がこぼれる。巫女は祭壇の前に座り、目をらんらんと輝かせて見る。村人は遠巻きに舞台を眺める。


伏姫「これが皆のためであると言われるのなら仕方ありません。八房よ成仏してください」
巫女「ああ、成仏はいかん。犬よ、殺された恨みを抱いて犬神となるのじゃ」
伏姫「犬神になどなってはいけません。私が手ずから首を刎ねてあげるのです。成仏するのですよ」
村長「成仏はいかんと巫女殿も言われておる。伏姫よ。考え違いはいかん」
村人「そうじゃ、そうじゃ。せっかく八房が死んでくれるというのに、犬神にならずに成仏なんてすれば、それこそまさに犬死にではないか」
伏姫「皆さま何をおっしゃるのです。この世に生を受けた生き物ならば人も獣も同じこと。輪廻の輪の中に暮らす仲間ではないですか。たとえ死んでも普通に成仏さえしておれば八房も次は人として生まれ変わるかもしれないのですよ。それを犬神になどにして生き物の輪から外してしまえば、ああ、八房の魂はいったいどうなってしまうでしょう」