アングラ劇『犬神ぢごく変』 12-02
巫女「娘よ。案づるでない。その犬は神となるのだ。生き物の輪からは外れるかも知れぬが、神となれば格別。もうすべての生き物の上に立つこととなる」
村長「そうじゃ、そうじゃ。八房は神となるのじゃ。成仏など望んではいかん。さあダンビラを振り下ろせ」
巫女「さあ犬よ。呪え、恨め。妬め、そねめ。お前の悔しさがそのまま犬神の威力となる。さあ、歯を剥きだして吠えたてろ。怨念に包まれてしぬのじゃ」
村長「伏姫よ。ダンビラを振り下ろせ」
村人「ダンビラを振り下ろせ」
村人「ダンビラを振り下ろせ」
村人「ダンビラを振り下ろせ」
村人「ダンビラを振り下ろせ」
伏姫「ごめんなさい」
村長「伏姫、どうした? 誰に謝っているのだ?」
伏姫「村長に村の皆さん。本当にごめんなさい」
村人「なぜワシらに謝るのだ?」
伏姫「やはり、八房を殺すことはできません」
村人「わあ、伏姫がダンビラを持ち替えた」
村人「我等を斬る気だ?」
伏姫「八房よ、逃げなさい。あなたの力ならそんな穴から抜け出すくらいわけのないことであったはず。それを私たちに気を使い捕まったふりをして、さらに命までさしだそうとしたその健気さ。もう良いのです。私のほうから村を見限ぎることにしました」