呪いで人は殺せるか? 問題編10
そしてその夜、スケキヨは何者かに刺されて死んだ。完全に施錠されて、密室となった樽の中で。「発見された状況を手短に話すとこうだ」と警部は言い、次のような話をはじめた。夜中の二時過ぎ、二階からスケキヨの悲鳴がした。両親は飛び起きて階段の下に来ると、そこに奥座敷の山伏も駆けてきた。三人がそろってスケキヨの部屋に入ると、部屋はしんと静まっていた。両親が樽に呼びかけたが返事はない。父は急いで階下に降り、樽の蓋をこじ開ける道具を探した。母は樽を強く揺さぶり、転がしてしまった。すると樽と蓋の隙間から血が流れ出てきた。山伏は驚き印を組んで呪文を唱えた。父はスパナを探し出し、それでようやく蓋をこじ開けた。そして樽からスケキヨを引きずり出し、床に寝かせた。スケキヨは例のヌイグルミを抱いていた。スケキヨに強く抱きしめられていたヌイグルミは血まみれであった。母はそれを引きはがして床にたたきつけた。父がスケキヨの脈をとった。スケキヨは出血多量ですでにこと切れていた。父親は呆然としてペタリと座り込んでしまった。山伏は携帯で一一〇番をした。警察はスケキヨの遺体を調べ、それから樽の中を調べた。樽の中には血まみれの毛布が一枚あるきりで、凶器らしきものはなかった。警察は部屋中から凶器らしきものを探した。しかし部屋から凶器は出なかった。発見者の三人からも凶器は出なかった。窓の鍵もかかったままであった。「これは樽という密室の中でおこった殺人だ」と刑事は言った。「おまけに凶器も見つからない」と別の刑事が言った。母は刑事にすがりつき、「スケキヨは呪いで殺されたのです」と言ったあと、「犯人は隣の五百子です。あの魔女を捕まえて処刑してください」と付け加えた。