呪いで人は殺せるか? 問題編09

 山伏はブツブツと呪文をつぶやき煙はモクモクと立ち込める。その部屋の真ん中に置かれた巨大な樽とそこから突き出た男の両足、さらにその股に挟まれた女の子のヌイグルミ。「こんな異常な状況にあって、どうして親が平気でおられようものか。松子はいきなりぴょんと起き上がり、半狂乱になってそのヌイグルミにつかみかかった。その気配を感じたものか、スケキヨはさっと足を引っ込め、樽に蓋をさっと閉めて中からガチャリと鍵をかけた」警部はまるで見てきたかのように、その光景を話し続けた。「何なの。その汚らわしい人形は?」と松子は樽を叩いて怒鳴った。「五百子ちゃんの分身だ。僕は五百子ちゃんを抱きしめ、呪いから守ってもらうんだ」スケキヨは樽の中、ヌイグルミを抱きしめ狂ったように叫び続けた。ああ、これぞまさに阿鼻叫喚。スケキヨの部屋での護摩焚きはまるで地獄の一場面のようになって終わっていったが、さらにその数日後、この人形が紛失するという事件まで起こってしまたのである。バンバン、と興奮しきって机を叩く警部を見て、「こりゃまるで講談だね」と名探偵は苦笑した。警部はそれで我に返り、「ああ、失敬失敬」と頭を掻いて続きを手短に話した。「その何日かのち、スケキヨがシャワーを浴びに風呂場に行ったその隙にヌイグルミがなくなった。スケキヨはひどくいきり立って一階の部屋を荒らし周り、その人形を探した。両親の寝室から台所から、山伏のいる奥座敷まで。しかし人形はどこからも出てこないまま、その日はすぎたのだ」「その日は過ぎた? ということは?」名探偵が尋ねた。警部は、「うむ」と頷いて、「翌日、スケキヨがトイレに行っている間に、人形はもとの場所に戻っていた」と答えた。