呪いで人は殺せるか? 02-09

 名探偵は立ったまま、「するとだいたい五年前から、スケキヨ君はキミを見ていたんだね」と言ってから計算して、「これは彼が引きこもりになった時期と一致するね」と問いかけた。「さあ、そうかも知れないし、そうでないかも知れない」五百子は少し顎を上げて名探偵を見上げ、「あの人、毎日カーテンの間に隙間を開けてずっとこっちを覗いていたよ。私も少しカーテンを開けて、時々見えるようにしてあげていたの」と笑った。五百子の視線を避けるように名探偵は横を向き、「彼の部屋に行くようになったのはいつ頃?」と尋ねた。「さあ、今年の秋ごろだったかな? 私がちょっと、その、いじっているとね。カーテンの向こうの彼が食い入るように見入っちゃって。それでちょっとからかってみたくなって、窓から訪問してあげたのよ」五百子はキャスターをコロコロ転がして名探偵の正面に回った。名探偵は再び横を向き、「その踊りは、真言立川流と何か関係があるのかい?」と尋ねた。五百子は身体をくねらせ名探偵の顔を覗き込んで、「そうよ、大有り。真言立川流って性欲を解放することで何でも願いを叶える素敵な宗教だからね。この踊りも性の解放のために踊ってるのよ」と妖艶に笑った。そして名探偵の手を取り、「髑髏本尊と荼枳尼天が交わって世界は救われるんだから。ねえ、一緒に楽しまない?」と自分の股を触らせた。「あ、ああ。もういいよ。ありがとう」と名探偵は窓から転げだし、ほうほうのていで逃げ出した。そして夜道の空を見上げて、「呪いで人は殺せる」と月に向かって宣言したあと、「美少女の誘惑が呪いなら母親の愛情も一種の呪い。いずれにせよスケキヨは呪いで殺されたのに相違ない」とつぶやいた。 おしまい。