呪いで人は殺せるか? 02-08

「あの子を解放してあげたかったんです」と松子は自供したという。「この世はきっとあの子にとってはとても辛いものだった。まるで地獄のようなところだったのでしょう。せめて母親である私の手で天国に送ってあげられたこと、とても嬉しく思っています」松子は警察でそう言ったのち泣き伏したという。こうして警部の手柄で犯人はあげられ、事件は解決した。ウィスキー樽の密室と塩のナイフは珍しいと多くの記者が話を聞きに警察に来た。警部はそのたび鼻高々で推理の過程を話したが、話すたびに大げさな物語になっていった。そして、「ワシもすっかり時の人じだよ」と警部が大笑いしたその日の夜、名探偵はスケキヨの家に行き、塀から屋根へと上った。そしてスケキヨの部屋の窓の前に立って後ろを振り返った。そこには隣家の窓があり、カーテンが少し開いていた。名探偵は瓦に腰かけ、そのカーテンの隙間をぼんやりと見てていた。すると五百子がくねくねと妙な踊りをしながら部屋中を練り歩く姿が見えた。踊りながら服を脱ぎ、彼女はやがて素裸になり、股の間に手をやった。名探偵は屋根から屋根へと伝って渡り、コンコンと、五百子の部屋の窓をノックした。五百子は驚くふうもなく振り返り素裸のままニコリと笑った。そして窓の鍵を開け、名探偵を招き入れた。「スケキヨ君は毎晩キミのその妖艶な踊りを窓越しに見ていたんだね」名探偵は尋ねた。五百子は服を身につけながら、「ええ、そうよ」と答えた。そして、「私が立川流の信者になったのが十三歳の頃だから、その頃からあの人、ずっと見てたわね」と言った。「キミはいま何歳だい?」と名探偵は尋ねた。服を着終わった五百子は、「十八歳。もうすぐ十九歳になるわ」と椅子に腰かけながら答えた。