呪いで人は殺せるか? 問題編08

 警部は真っ赤になって怒った。「なんだと、もしそれが毒物でワシが死んだらどうするつもりだ?」名探偵は、「まあまあ」と軽くそれを制し、「生きているからいいじゃないですか」と平気な顔で言ったあと、「それより話を山伏に戻しましょう。山伏は当然、スケキヨの部屋でも護摩を焚いたでしょうね?」と尋ねた。警部は憮然としながらも、「ああ、もちろん焚いたとも。スケキヨが置いていた祭壇を取り外し、代わりに自分の祭壇を置いて、そこで盛大にモクモクと護摩を焚いたということだ」と言った。名探偵は頷いたあと、黙って先を促した。警部はオホンと咳払いをして、「さあ、ここからがすごい。山伏がまじないを唱えながらせっせと薪をくべたので部屋は煙だらけになる。両親は部屋の隅に座り込み、樽に手を合わせて拝んでいる。するとだな。そこで蓋がポンと開いた。これは効き目があったのかと両親は驚き喜んで樽ににじり寄った。するとなんと、樽の中から足が二本、ニョキニョキと出てきた。樽からスケキヨの両足が突き出しているといった塩梅だな。わかるか? 昔、犬神家の一族って映画があっただろう? あの構図だよ。両親はたまげて尻もちをついた。映画犬神家の一族なら、突き出た足はそのままなんだが、この樽の中のスケキヨの足はさらにニョキニョキと伸びあがり、とうとう下半身まで突き出してしまったんだが。さあ驚いたことに彼はその股の間に二頭身の裸の女の子のヌイグルミを挟んでいたんだよ。それも隣家の五百子の顔そっくりの人形を」と、大げさな身振りで説明をした。名探偵は目を閉じ、「ふうん」と頷いたあと、「それはそのお母さん、松子さんだっけ? さぞかしショックだっただろうね?」とつぶやいた。