呪いで人は殺せるか? 問題編07
「そうして幾日かが過ぎた頃、父親の佐兵衛がその山伏を連れてきたのだ」と警部は言った。「それで、その日から山伏はスケキヨの家に住み込むようになったんですね?」と名探偵が尋ねた。「そう。山伏は一階の奥座敷を与えられ、そこに護摩壇を焚いて呪詛返しのまじないをするようになったらしい」「呪詛返しのまじない?」「そう。呪いを返すまじないだ。もえん不動明王、火炎不動明王とか、不動明王を次々に召喚し、かけられた呪いを相手に返す術だそうだ」「へえ」と名探偵はそこで少し黙りこんで考えていたが、「ああ、そうだ」と不意に思い出したようにポケットから紙包みを取り出し、中の粉を数粒なめた。そして、「あ、辛い。これは塩ですね」と言った。警部は名探偵の突然の奇妙な行動をぼんやりと眺めていたが、しばらくたって「塩がどうかしたのか?」と尋ねた。名探偵は頷いて、「そう。この部屋に入った時、床がザラザラしていたでしょう? それの正体は塩だったんですよ」と答えた。そして、「呪術などの世界において、塩は魔よけの大切なアイテムですし、ほら、盛塩とか、清め塩とか。さて、これも何か意味があるのかな」とつぶやいた。警部は不意にハッと気づき、「その紙包み、それは先ほどワシに舐めさせたものと同じだな?」と尋ねた。名探偵は頷いて、「そう。先ほどこの部屋の床のザラザラを少し集めて紙に包んでおいたのですよ」と言った。「それで、あんた、それが塩だと知っていたのか?」警部が尋ねた。「知りませんよ。何の粉だかわからないから、まず警部に舐めてもらって、しばらく様子を見ていたんです。それでどうやら大丈夫そうだと思ったんでボクも舐めたんですよ」名探偵はしゃあしゃあと言って笑った。