十三番目の殺人 解答編08
警部に逮捕された円山一は、元素記号の奇妙な唄を歌いながら警察へと連れて行かれた。「まさに曳かれ者の小唄だね」と名探偵はその背中を見送りながら隣に立つ女に言った。女は涙をこらえながら、「そう、あの人は虚勢ばかり」とつぶやいた。この女がお駒。円山の恋人。そして玄宗和尚が横恋慕をした美少女の楊貴妃。「和尚さんを殺したあと、彼は逃げる事もできた。でも彼はそうせずに、そのままお寺に隠れた。さあ、その理由がわかるかい?」名探偵は独り言のようにそんな言葉を口にして、「もしかしたら、君が座禅に来るかも知れない、なんて思って待っていたからさ」と隣のお駒に囁いた。「ああ」とお駒は口に手を当てた。「彼はね。和尚とキミの関係を疑っていたんだね。周りの野次馬にからかわれて、つい本気にしてしまってね」お駒の目からポロポロと真珠のような涙がこぼれた。「なんて馬鹿な一さん。私がそんな真似するわけないのに」名探偵は慰めるように言った。「まあ、男なんてものは馬鹿な生き物だ。思い込んだら最後、何もかもが妖しく見えて、まったく疑いをぬぐい切れずに、今回の犯行に及んでしまったというわけだね」お駒は泣き崩れてしまった。名探偵はその綺麗なうなじに目をやりあわてて目をそらして思った。「しかし彼女はひょっとすると、本当に楊貴妃なのかも知れない。そして和尚は彼女に狂った玄宗皇帝。二人が偶然に出会ったことが破滅の扉を開けちまつた」この扉の暗号、いや鍵穴はどちらで鍵はどちらであろう。「そりゃ、女が鍵穴に決まっている。そして男が鍵なんだ」耳元で風がそうつぶやいた。なるほどそうに違いない。そして今度は、「そう、ボクが彼女の鍵となるのも悪くない」名探偵はふと、そんなことを思った。