呪いで人は殺せるか? 問題編01

「結論から申しましょう。呪いで人は殺せます」と名探偵は言った。警部は、「ああ、やはり」と納得したように頷き、「そうでなくてはどうにも理屈にあわんからな」と言いながら室内に名探偵を招き入れ、「ここが現場だ」と案内をした。名探偵が部屋に入ると巨大なウィスキーの樽がひとつ転がっているのが目についた。樽から大量の血の流れ出た赤黒い跡が見てとれた。「被害者のスケキヨはこの樽の中で死んでいた」と警部は名探偵に言った。「刺され傷だと言っていましたね?」と名探偵は警部を見た。「ああ、腹をえぐられて、出血多量で死んでいた」と警部は樽の前にしゃがみこみ、「今はこうして開いているが、スケキヨが死んだ時、この樽には蓋があり、蓋は内側からしっかり鍵がかけられていた」と壊れた蓋を指差して言った。「密室殺人なんですね?」と名探偵も警部に倣ってそこにしゃがみ、樽を覗き込んで尋ねた。「そう、樽の中の密室殺人。この樽の内側は外部からまったく遮断された状態であった。しかるにスケキヨはこの樽の中で刺殺されてしまったのだ」警部は興奮気味に自分の太腿をバンと叩いた。「なるほど」と名探偵は相槌を打ち、それから、「おや?」と妙な顔をして床をそっとなでた。「どうしたのだ?」と警部が聞いた。名探偵は、「いえ、この床ですがね。やけにザラザラしていると思って」と少し首を傾げたあと、「ああ、それより密室殺人ですね」と警部に向かって微笑んだ。警部は大きく頷いて、「そうそれ、密室殺人。実際にそんな真似できるはずないのに。しかるに、こうして起こってしまった。とすると、これが呪いによって殺されたのでなくて、どう理屈をつければいいのだ?」と苦々しげに口をゆがめた。